「 なぜ韓国人は日本人を憎むほどに中国人を憎まないのだろうか 」
『週刊ダイヤモンド』 2013年1月12日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 968
日韓米中で新政権が発足し、2013年のアジア・太平洋地域ではこれら4カ国の外交政策が複雑に交差する。その中で、日本外交の基本は日米関係の修復と緊密化であるが、韓国との関係も重要な変数となる。
韓国外交を観察していてしばしば驚くのが彼らの親中ぶりだ。歴史上、朝鮮半島を最も苦しめたのは中国である。侵略回数は数百回を数え、朝貢制度で中国は毎年、美しい女性や優れた料理人、陶磁器作りの匠などを召し上げた。そんな屈辱的な扱いをされたにもかかわらず、なぜ、韓国人は日本人を憎むほどには中国人を憎まないのだろうか。
例えば1988年、戦後没交渉だった韓国と中国は、ソウル五輪で久方ぶりの「再会」を果たす。そのとき韓国人は中国人に「非常に好意的態度を示し、まるで長い間会えなかった友人」のように中国チームを応援した。以来、韓国の親中は今日まで続き、その感情は屈折していまや反米と親北朝鮮感情となり噴き出ている。それはなぜか。
このような歴史的要因を含めて韓国人の中国観を描いたのが『蜃気楼か?中国経済』(金起秀著、洪熒(ホン・ヒョン)訳、晩聲社)である。
金起秀氏は韓国政府系シンクタンク世宗研究所国際政治経済研究室長で、これまで「米中経済関係の戦略的理解──相互依存と競争」など多くの論文を発表してきた気鋭の学者である。
氏はまず、韓国の中国コンプレックスの起源を高句麗時代にさかのぼる。高句麗の滅亡(668年)以降、中国は朝鮮半島を一方的に支配した。朝鮮王朝(1392~1897年)は中国の明および清に朝貢し、中国は高句麗の後に誕生した高麗王朝と朝鮮王朝を属国として扱った。こうした中、韓民族は中国に「途方もない恐怖とコンプレックス」を抱いて暮らすようになったと、金氏は明確に述べる。
さらに、ここからが興味深いのだが、そうした中で韓民族は独特の「自尊心と生存戦略」を発達させたというのだ。例えば高句麗はただ滅ぼされたのではなく、後に高麗王朝として「転生した」と考える。転生は韓民族が韓国特有の文化を育て、継続したからこそ、可能だったというのだ。
もう一つ韓民族が習得したのは、適当に中国の機嫌を取ってやれば、中国をコントロールすることも可能で、また、朝鮮王朝の生命を中国の王朝よりも長引かせることができるという原理の発見だという。確かに、朝鮮王朝は1392年から約500年続いたが、彼らを支配した明も清もそれぞれ300年弱で滅亡している。
文化の蓄積故に韓民族は支配者よりも長い歴史を生き抜いたという誇りが対中面従腹背の姿勢の根底にあると金氏は指摘するのだが、一方で、面従腹背でも、親中路線は揺るぎないのが韓国人一般の傾向だと金氏は分析する。
だがいまこそ、韓国人は、中国の素顔を見なければならないというのが、金氏の言わんとする点なのだ。隣接した国同士は仲よく過ごせない、国々は互いを信じられないということが国際関係の最も大きな特徴であり、「中国のあらゆる行動は、いかなる場合でも、隣接した国々と仲よく過ごすことは当初から不可能だという仮定に基づく」と氏は喝破してみせる。
資本主義が加味された半西欧式制度の下で成長を続けた中国経済だが、結局は権力の絶対的支配下に置かれ続け、天文学的な貧富の格差と天文学的な腐敗に象徴される社会の矛盾は深まっていく一方だ。習近平体制の下でもその矛盾の修正は困難であり、計画経済および一党独裁の限界が見えてきたというのだ。
こうしたことはある意味、日本や欧米諸国では周知の事実だが、韓国の政府系シンクタンクからこのような報告がなされたこと自体、私は新鮮な気持ちで受け止めた。朴槿恵大統領にこそ、読んでほしい書物である。